山と渓谷 2月号より抜粋

登山における道迷い遭難を防ぐには!

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2006.5.1

   登山での遭難事故で一番多いのが道迷いによる遭難事故です。
      ・なぜ、道迷い遭難が起きるのか。
      ・どうしたら、道迷いを防げるのか。

1.道迷い遭難とは

        道迷いとは、本来たどるべきルートをはずれ,いつのまにか違う方向に向っていて、最終的に
      現在位置がわからなってしまう状態のことです。その結果山中を何日間も彷徨ったり行動不能
      に陥ったりしてしまうことを道迷い遭難といいます。
        山登りにおける道に迷いやすい山や場所

      ・森林限界を超えない標高2500m以下で入山者が少ない山。北アルプスのような入山者が多
       く登山道がしっかり整備されている山では起こりにくい。
      ・作業道や踏み跡が登山コースと交差している低山や里山で多発している。
      ・頂上に向うときより、頂上から下山するときに起こりやすい。
      ・単独行が圧倒的に多い。しかし近年は大人数の中高年グループが道に迷うケースもある。

2. なぜ道迷い遭難が起こるのか

       道迷いの要因としては,地形や天候などの外的なものと登山者自信の心理的なものとが有る。
     すべての道迷い遭難は、外的要因と、内的要因が相互に作用し合って引き起こされる。

  @ 地形的に迷いやすい場所

      ・ 沢ノ渡渉点
      ・ 広い河原や広場
      ・ 尾根の分岐点
      ・ 岩場やガレ場、藪の中 
      ・ 低山や里山   


       これらの場所は道標が整備されていない限り,明確なトレースがついていないことが多く,踏み
     跡が多くあったりしてよけいに迷いやすくなっている。ただし同じルートを通った人が全て迷うわ
     けではない。ただ漠然と歩いている人は迷いやすい場所で間違えてしまうが,慎重に行動してい
     る人は迷わない。その差が個々の内的要因によるものです。

  A 積雪

      雪のない時期なら明瞭なルートも,雪に覆われてしまうと,あたり一面が同じような雪の斜面にな
     ってしまいどこを通っていいのか分からなくなる。ある意味,雪山には正しいルートはなく目的地に
     着ければどこを歩いてもよいのです。しかし場所によっては雪崩や雪庇などの危険があり,それを
     避けるために迂回したりするので夏道と違うルートを通るためよけいにルートを見失いやすくなる
     入山者が多い山であるならば先行者のトレースがたどれるが,降雪直後はトレースも消え自分で
     ルートを判断して進まなければならない。トレースのない雪山では基本的に周囲の地形を地図と
     コンパスで照合しながら行動することなる。ガスや吹雪によるホワイトアウトになればほとんど何
     も見えなくなる。そのぶんより慎重なルートファインデングが求められる。雪山に登ろうとするなら
     地図とコンパスを的確に使いこなせなければならない。

      【 初心者の場合、かならず経験豊富な同行者の同伴が必要である。】 

  B 悪天候

      我々が山を歩く時には周囲の状況を目で見ながらルートが間違っていないことを確認する。そ
     の状況が,自分がイメージしているもの,あるいは記憶にあるものと違っているときに,「道に迷った
     かな」という疑問が頭をよぎる。ところが,雨や降雪,ガスなどで視界が悪いと目から得られる情報
     が極端に少なくなり天候のことに気を取られて注意が散漫となり道標を見落としたり分岐を間違
     えたりして知らず知らずうちに迷ってしまうことになる。

  C 赤テープ

      登山コースを示す印は色々あるが,樹林帯に中では,木の幹や枝に赤テープが付けられている
     こが多い。ところが登山者を正しいルートに導くはずの赤テープが,じつはクセ者なのです。そも
     そも赤テープを付ける基準がある訳ではなく,個人や団体が様々な目的で付けているのが現状
     である。それを知らない登山者が登山ルートの目印だと思い込んで,気が付いたら道に迷ってい
     たという事例が報告されている。 

  D 思い込み

       山で道に迷う心理的な要因としてあげられるのは「思い込み」である。道迷い遭難のほとんど
     は 、外的要因がきっかけで引き起こされる思い込みによるものである。思い込みにはいろいろ
     なパターンがある。以前歩いたことのあるコースを間違って認識している場合,分岐点で「たしか
     こっちだったよな」とおもって行ってみたら別のほうに行ってしまったというケースである。これは
     時間の経過による記憶のあやふやになっていることのほか、別の山の記憶と取り違えるために
     起こるものと思われる。

       また,始めていく山の場合には,事前に地図やガイドブックなどを見た情報からイメージを作り上
     げてしまうという思い込みもある。頭にインプットされた情報を過信するあまり,実際の山行では地
     図を広げて確認することをせず,道に迷ってしまうことがある。事前に情報を得ていなくとも思い込
     みは起こる。「下に建物が見えたから」「ほかの登山者がそっちに行ったから」などの思い込みの
     根拠は人それぞれ個人の性格や気質などによるところも大きく,必ずしも理にかなっている根拠が
     あるというわけではない。なお,道迷い遭難が圧倒的に単独行に多いのは,間違った思い込みを訂
     正してくれる第三者がいないからだ。ただし,仲間がいてもみんなが「連れて行ってもらう」という意
     識でいたのではリーダーの思い込みをした時にそれを指摘できる者はなく,道に迷ってしまうことが
     ある。

  E 注意力散漫

       「道迷いは,女性の場合はおしゃべりをしながら歩く,男性は思い込みによって引き起こされる」
      おしゃべりにかぎらず,考え事や写真撮影,動植物の観察など歩きながらほかの事に気を取られ
      ていたり,ただボーと歩いていたりしていると,つい分岐点を見逃してしまい間違った方向に行って
      しまう。気が付いたら「ここはどこだ」という状況になっていたということが起きる。山での行動中
      に注意力が散漫になると,道迷いだけでなく,ほかのさまざまな危険に対して無防備な状況になり
      ,転落,滑落事故や落石事故などを起こしやすく危険である。

  F 引き返さない

       山に登った経験のある人は誰でも、多かれ少なかれ道に迷ったり、迷いそうになったりした経
      験があると思われる。それでも遭難せずにすんでいるのは「あれ、おかしいな?」と思ったところ
      で引き返しているからでしょう。引き返せない人が道迷い遭難を起こすのである。山で道を間違
      えていると,必ず「あれ,おかしいなこの道でいいんだろうか」と思う瞬間がある。これは本能が発
      する危険信号です。その時点で引き返すか引き返さないかが,遭難するかしないかの分かれ道
      となる。途中まで正しいルートを来ていたのだから,引き返せば必ず「ここで間違えたのだ」という
      ポイントに出るはずである。そこから正しいルートをたどればよい。

        しかし、この引き返すことがなかなか出来ない。引き返すことが面倒となり「もうちょっと行って
      みよう」とさらに進んでしまうと,間違えたポイントからかなりの距離を進んでしまい引き返す決断
      を下せなくなる。道迷いが下山時に起こすと登り返えさなくてはならず体力的,時間的なことを考
      えよけいに億劫になってしまうからです。

         ・道に迷ったら来た道を引き返せ
         ・道に迷ったら沢に下らず尾根に登れ

       というのは山登りの鉄則であり、山登りをやっている人はおそらく、誰でも知っていることでし
       ょう。当たり前のことが実践できれば道迷い遭難は未然に防げるはずです。


3.道迷い遭難を防ぐには
   
     山で道に迷わないために

       道迷い遭難は現在、国内で発生する山での遭難事故の1/3を占めるまでになっている。
      (山菜取り、キノコ狩り、渓流釣り等も含む)だれも道に迷いたくて迷っているわけではない。道
      に迷わないためには、どうすればよいのだろうか。

     @ 情報の収集 

       まず計画段階でコース上で迷いやすい場所があるかどうか、ガイドブック等でチェックする。
      また地元の役場や山小屋などに最新のコース状況を問い合わせておく。雪のある時期や台風
      の後などは特に注意する。集めた情報は地図に記入しておく。

    A 現在地を確認しながら行動する

         道に迷った人の話を聞くと地図もコンパスも持っていないという人が多い。それでは迷うのも
      当然。実際の山行時には地図とコンパスを使い,つねに現在地をチェックしながら行動する習慣
      を付ける。登山口から始まり,休憩ポイント,見晴らしの良い場所,コースの分岐点,コースが変化
      する場所など要所要所で地図を広げて今いる場所を地図上で特定することにより正しいコース
      であることが確認できる。

    B 目印を付けながら進む
        登りと下りで同じルートをとる場合、沢の渡渉点や雪渓の出入口、ルートが不明確な樹林帯
      の中や河原など迷いそうな場所があったならテープやリボンなどで目印をつけながら往路をた
      どれば復路で迷うリスクが軽減できる。ただし往路で付けた目印は必ず復路で回収すること。

    C 一人一人が自主性を持つ
        最近は、登ろうとする山のことも、これから歩くコースのこも知ろうとせず、ただリーダーのあ
      とについて歩くだけという登山者も少なくないという。リーダーが常に正しい判断をするとは限ら
      ない。もしリーダーがうっかりコースを間違ったたとしても誰も疑問に思わずついていったとした
      ら,メンバー全員が道迷い遭難に遭ってしまう。パーティ全員が自主性を持って山行に臨めばも
      しリーダーが間違そうになった時も「これは違う」と指摘でき道迷い遭難を未然に防げるもので
      す。

    D 「おかしい」と感じたらすぐに引き返す   
      
ほとんどの道迷いは、「あれ、おかしいな」と気づきながらも道を間違えていることに確信が持
      てず,また引き返すのが面倒になり「もうちょっと行ってみよう」と進んでしまうことが発端となり進
      めば進むほど戻るのが面倒になって深みにはまってしまうのである。山で「おかしい」と感じたら
      そのカンはだいたい正しいのである。

       その時点で間違った場所まで引き返す勇気を出せば道迷い遭難は防げるのです。

4.もし道に迷ってしまったら
     
    @ 現在地を確認する

       
道に迷ってしまった時にまず行うことは現在地の確認である。現在地さえ確認できれば、どち
      らえ行けば正しいルートに戻れるか判断できるからである。
自分が今どこにいるのか知るには
      コンパスと地図を用いて周囲の地形と地図を照合しながら割り出していく。そのためには出きる
      だけ周囲の見通しがきく場所に出なければならない。山で見通しが良い場所といえば尾根やピ
      ークなど。樹林帯の中にいる場合は尾根やピークなどに登り返し展望のきく場所を探すことであ
      る。しかし現実には,尾根に出ず沢を下ってしまう人が多い。たしかに藪をこいで斜面を登り返す
      ことは容易なことではない。「迷ったときは沢を下ってはいけない」と頭で分かっていても下るほ
      うが楽であり山麓に下れるのであれば越したことはないと考えてしまうのでしょう。 

    A 覚悟をきめて救助を待つ  

      
現在地がなかなか特定できないと 平常心を保ち続けることが難しくなりパニックに陥ってし
      まう。しかしパニックを起こしてむやみに歩き回ることは体力を消耗し助かるものも助からなく
      なってしまう。もし自分のいる場所がわからず完全にお手上げ状態になってしまったら長期戦
      になることを覚悟を決め安全な場所を探し,体力を温存しながら救助を待とう。 


5.登山届の有無が生死を分ける
 

        登山届けを出さず、家族にも行き先を告げずまま山に行き道に迷って遭難してしまうケース
      が最近多くなっている。事故現場が特定できない道迷い遭難はで,はたとえ登山届けが出てい
      ても捜索が難航するが行き先が分からないのでは手の打ちようがない。もし登山届けが提出
      されていれば捜索範囲が限定されるため早く救出でき命を落とさずにすむかもしれない。万一
      の時に備え登山届けは必ず提出するようにしたいものです。どうしても提出できないのなら家 
      族や職場には登山計画書を残してから出かけるようにしましょう。